てとてとてと

「話はもう終わりかな」


 言葉の切れ目を狙って、一歩前に出て行く。

 急に動きだしたことで、張り詰めていた空気の糸が弛んだ。


「悪いけどこれからお昼なんだ。
 俺に構っていると、時間がなくなるよ」

「……貴方に言われなくても!」


 振り上げられる、手のひら。

 まさか、と思ったときにはもう遅かった。


 ――パン!


 風船が破裂したと思うくらいに、煩い音。

 あの時と同じ、避けずに平手を受ける彼。

 叩いた相手は裾を翻して走っていく。

 どうして、そこまでする必要がある。

 叩かれなければいけないほど、悪い存在だというの。

 ぐちゃぐちゃになった頭は、ここから立ち去れとあたしを動かした。

 お昼の話題は、あまり気持ちが良いものではなかった。

 保健室の出来事を一部始終見ていた男子たちが、食事の席に加わって話題にしたのだ。

 まわりの女子は嫌そうな顔をして、
 男子たちははやしたり会話を避けたり、
 様々な反応が飛び交い、
 集まっているのに仲が割れていた。

 でも、一番の驚きは誰も驚いていないことだった。

 またか、といった表情をしていた。

 あんな出来事が、頻繁に起こる学校なのだろうか。

 浮かんだ疑問は、後に杞憂だとわかったけれど、
 同時にどうしようもない爆弾を抱えた。

 保健室に屯していた男子たちは、口々にあの時を話していた。

 それはすべて、二人のぶつかり合い。

 生徒会長の穂積彩音と。

 問題児、吾妻幸介の悪業。


「――――ねえ」


 あたしは、取り返しがつかないと知っていた。

 それでも聞かずにはいられなかった。

 呼び掛けを無視して会話を続ける男子の、うろ覚えだった名前を脳をフル稼働させて思い出す。


「田沢くん?」


 田沢満。
 そんな名前だったはずだ。

 予想は当たっていたようで、会話をぴたりと止めてこちらを向いた。


「なんだい久坂」


 あたしから呼び掛けたからか、少し声がはずんでいた。