てとてとてと

 想像もしなかった、と言えば嘘になる。

 可能性はあった。
 階段を下りた先は、保健室だから。

 ただ、その相手が予想を上回っていた。


「ここで、何をしているんですか?」


 鋭い視線で問い詰める、女子。

 淀みない琥珀色の瞳は真っすぐと、相手を見据えていた。

 睨み付けると顔つきが悪くなるのだが、女子はあくまで綺麗な顔。

 それは睨むことなく、
 言葉で、空気で、怒りを表していた。

 先生とは違った迫力を前に、背中を向けている男子はすまない、と謝った。


「でも、ただ保健室で寝ていただけだよ」

「本当に体調が悪い生徒が来たらどうするんですか」


 お前が体調を崩すなんてありえない、
 事情を聞かずそう断言しているように聞こえた。

 彼女の言葉に、まわりの男子は同意して頷いた。

 あるいは、にたにたと笑みを浮かべていた。

 いい気味だ、と嘲笑っている。


「そうだな。その時はベッドを譲っていたかな」

「ほらみなさい、やっぱり仮病だったんですね」


 言質をとったことで、女子は規律がどうの、風紀がどうのと、説教を始めた。

 しかし、それは言葉の暴力だ。

 具体的な悪口は一つも言っていないが、
 遠回しに威圧的に、
 お前が悪いんだと排斥していた。

 あたしは不思議で仕方がなかった。

 保健室でさぼったくらいで、どうして同じ生徒にそこまで言われなければならないのか。

 どうして、一言も言い返さないのか。


 あたしが知る彼なら……。


 ――どうするだろう。


 こんな修羅場に直面するまで、彼がどんな人間かなんて知りもしなかった。

 ただ、余計なことをするお節介だとしか、見ていなかった。


 ――ぞわ。


 背筋が寒くなった。
 取り返しのつかないことになる、そう心が感じ取った。