てとてとてと

 ――嫌われる何かをしたわけだけど……。

 昼休みになって戻ってこない、空いた席の生徒を思い出す。

 聞き逃した言葉を思い出したが、その意味まではわからなかった。

 元々中途半端な言葉だったのだろう。

 続きが気になったあたしは、お弁当も開かずに教室を出て行った。


「久坂さん? どこに行くの」

「ごめん。すぐに戻るから、先に食べてて」


 約束した相手と、勝手に集まる生徒を置いていく。

 保健室は一階だった。

 授業が終わって、時間はまだそんなに経っていない。

 人の目があるから、一段跳ばしをせずに早足になって階段を下りる。

 もういないんじゃないか。

 きっと無駄足になる。

 そんな言葉がなぜか浮かぶ。

 まるで、引き返せといわんばかりに。


「……あれ?」


 二階の踊り場から一階を見ると、何人かの男子生徒が集まって階段に屯していた。

 一方、通り掛かった女子たちは早足になって去っていく。

 ケンカの野次馬かしら、物好きな生徒もいたものだ、と呆れながら階段を下りた。


「あ、久坂!」


 すると、男子の一人が馴々しく名前を呼んだ。

 誰だろう、と内心で訝しがった。


「ちょうどいい、いまから面白いのが見れるぜ」


 ケンカの野次馬が面白いというのか。
 無作法で無遠慮、そんな生徒を一人知っていた。

 最近顔見知りになった一人だ。

 よく仲間を連れてやってきて、一方的に喋り続ける男子だ。

 女子からの評判は、あまりよろしくない。


「ほら、早くこいよっ」


 嫌がっていたことになど気付きもせず、焦れた態度で手招きする。

 呆れてものも言えない。
 しかし、このタイプは怒らせると何をするかわからない。

 あまり敵に回したくないので、ゆっくりと近づいていく。

 気付いた他の生徒が少し避けて道を開ける。

 別に特等席で見たいわけじゃないのだけど、そんなことにも気付いていないのだろう。

 類は友を呼ぶとは、よく言った。

 気付かれないようにため息を吐こうとして、逆に息を吸い込んでしまった。