てとてとてと

「ああもうっ、悔しいなあ!」


 当てられた茉莉が外野にやってくる。

 人数差は三対三で僅かにこちらがリードしていた。

 と言っても、残っているのは久坂と弘瀬、男子が一人。

 内野にボールが渡ったため、若干リードしている程度だ。

 相手は加藤、西川、宮崎だ。

 動きを見る限り、容易く当たってくれそうにない。

 ちなみに千草は今保健室だ。
 キャッチに失敗して顔面に当たり、鼻血を出して渋々離れた。

 主砲がいなくなった我らに攻め手がないかと思いきや。


「……しまった!」

「よし、あと二人!」


 パスに見せ掛けた変化球が、またしても決まる。

 なんて転校生だろう、間違いなくエースに相応しい実力だ。

 金色の水星現わる、体育新聞の一面は頂きだな。

 などという余裕は、長く続かなかった。


 ――バゴン!


「ぬうっ!?」

 いい音がして、弘背の胸板にボールが突き刺さった。

 あまりの勢いにキャッチを失敗したようだ。

 ボールは外野からの狙い。

 未だ健在な柔道部主将。

 千草を倒すために外野に出て、戻ってくる気配はない。


「……このままでは、まずいぞ」


 胸を抑えながら外野に来る弘瀬。

 千草ほどではないが、運動能力は学年でも高いはずなのだが。

 自分もさすがに捕れはしない。

 外野にいて弾くだけで精一杯だった。

 まして中にいるのは女子に運動部ではない男子。
 これは確かに、勝負が見えてきた。


「なんとか大将を引きずりだせないかなあ」


 じたんだを踏む茉莉。
 手が無いわけではないのだが、この状況ではまだ無理だ。

 --ああ!

 会場が突然騒めいた。

 内野を確認すると、最後の男子が当てられていた。


「これで一対二か」


 大将もいるから、一対三だ。

 さらに相手ボールからのスタートだ。これはいよいよ後がない。