てとてとてと

 ジャンパーは当然久坂だった。

 男子顔負けの運動能力を持つ彼女は、今までジャンプボールで負けなしだ。

 そんな久坂の相手は、なんと敵の大将だった。


「ジャンプボール!」


 審判のホイッスルが鳴り、二つの雄姿がボールを取り合う。


「甘い!」


 すらりと伸びた腕が、軽がると飛び上がった勢いに任せ、ボールを叩き落とした。

 図体のでかさが勝負じゃない、と言わんばかりに鼻で笑っていた。

 落ちたボールをキャッチするのは、千草。


「ついにこの時が来た……」


 涼しげに笑いながら、真っすぐ大将を見ていた。

 いやな予感がする。


「こいつで決着だぜ!」


 なんと、着地したばかりの大将にボールを当てた。


「どうだ、見たか!」

「反則ダイレクト。一組ボール」

「なんでだよ?!」

「この筋肉ダルマ! 試合開始直後はジャンパーに当てるな!」


 戻ってきた久坂が吠えた。

 ボールは容易く敵の手に落ちてしまう。

 敵の一組には、見た顔がいくつかある。

 柔道部主将の深沢に、
 野球部の前田、宮崎、
 帰宅部で加藤、西川。

 残りの四人は知らない顔だった。

 ちなみに、ボールを得たのは前田だった。


「それじゃあ、積年の恨み……」


 受け取った位置から、大きく振りかぶってボールを投げた。


「晴らさせてもらうぜ!」


 思いっきり、反転して全力で。

 唸りをあげて顔面に迫ってくるボール。

 そういえば大将だった、などと考えながら。


 ――バシン!


 反射的に動いた右腕が、ボールに当たって跳ねあげていた。