てとてとてと

「そういう意味では、我がクラスは天運に導かれたと言わざるをえないな」


 運動部の生徒が多く、帰宅部にも運動ができる生徒がいる。

 そして策を労する危険生徒と教師。勝ちに行かないはずがない。

 チーム分けの結果、一番の不安要素は部活参加者がいないドッヂボール班だったのだが、新たなエースを手に入れた我らに、敵はなかった。


「外野、パス回して!」


 張り上げられた声に、鋭くパスを回す。
 その女子は、きっちりボールを受けとめて。


「はい、そこ!」


 背中を向けていた男子に、レーザービームのような勢いでボールを投げ付けた。

 ガツン、と当たって跳ね上がるボール。

 やまなりに飛んで再び自陣内に落ちる。


「よっしゃ、来たぜえ!」


 我がクラスの主砲が吠える。

 柔道部主将より大きな体から、大砲のようにボールが飛び出す。


「いやあ、壮観だなあ」

「まったくですなあ」


 外野は元からいる自分と、敵の動きを計るためと、早々に当たった弘瀬のみ。

 いまや戦場は、一方的な蹂躙となっていた。

 他の男女はそれなりに動けるので、ボールは取れなくても避けることができる。
 はじめは、ボールが外に出るまで待ち、反撃する基本的な戦法だったのだが。

「そんな弱気じゃだめです! 押して押して、勝ちましょう」

 豪語する転校生がいた。
 背中で獅子が吠えていた。

 作戦の内容は至ってシンプル、かつ大胆だ。

 当てるつもりでボールを投げ、
 取れる奴は気合いで取り、
 避ける奴は死ぬ気で避ける。

 根性論を掲げたスピードゲームになった。

 しかし、そんな素敵な作戦を実施できる人材が我が班に半数もいたのだ。


「はっはっ、どうした、お前らの力はこんなもんなのかよ!」


 ――ピー。


「反則。ボール持ちすぎです」

「へっ?」

「脳みそ筋肉達磨! 三十秒以上ボールを持つな!」


 頼もしき主力たちだが、時折素でそんなミスをする。

 圧倒的な戦力でありながら、どこか憎めない美点だ。

 そうして敵のいない試合を繰り返して、気が付けばついに決勝戦まで勝ち進んでいた。