てとてとてと

「ねえ久坂さん、一緒に食べよう?」


 昼休み、何を思ったか唐突に声をかける我が幼なじみ。

 どんな接点があったのか、茉莉と久坂の仲はよかった。


「いいわよ。どこで食べるの?」

「天気がいいから屋上で」

「先約があったので失礼します」

「なんでえ?」


 いきなり機嫌が悪くなる。
 それはそうだろう、何度も見た光景だ。

 茉莉が屋上と言いだせば典型的なパターンがある。

 労せず場所をとるため、簡単に使える男に声をかけるのだ。


「――というわけで、よろしくね?」


 がっちり腕をホールドされた久坂は、恨めしい表情で睨んでいた。

 できることなら避けたいが、茉莉のおねだりからかみつき脅迫のコンボはできるだけ避けたい。


「わかった。先に行ってるよ」


 諦めて席を立った。

 すると、千草と弘瀬が寄ってきた。


「今日は屋上か?」

「食料調達とアリバイ工作をお願い」

「俺が行ってもいいぞ」

「お前じゃ怪しまれるだろう。それより新しい早開けの手順を教えろ」

「委細、承知した。今日は魔法のヤスリを教えてやろう」

「犯罪よね、あれ」

「そうなの?」

「自覚なかったんですか……」


 呆れながら飲み物を買いに行く、久坂と茉莉。

 購買まで全力で走っていく、暴走車の千草。

 そして、屋上へ向かう自分と弘瀬。

 久坂絵理香が転校してきて、日常が変わり始めていた。