てとてとてと

「……いらない、ですって?」


 空気は冷たいはずなのに、久坂の言葉はやけに熱かった。
 キッと挑むように睨み付けられると。


「……誰が、あんたにお礼なんか言うか!」


 と吠えられた。
 そりゃあもう、景気よく盛大に。


「お節介焼いて正義のヒーロー気取りか!
 あたし一人でどうにかできたわ、あんなへっぴり腰ども!」


 プライドに触った、ということだろうか。

 余計なことをされて大変おかんむりらしい。

 なるほど。
 クラスに来て、隣に座る相手が自分だと知って、あの時皮が剥がれかけたのか。


「わかった? あたしは文句を言いたかったの。
 断じてお礼なんかじゃないんだからね!」


 そう言って、久坂は大股歩きで屋上から出ていった。

 しかしいくら何でもここまで怒るだろうか。
 よほど欝憤が溜まっていたんだろう、と思った。



 久坂絵理香がクラスの一員になってから、はや数日が経った。

 その間の猫被り、いや、彼女の人気は凄まじかった。

 落ちることを知らず鰻登りで、初日に見せた豪気がまるで嘘のようだった。
 しかしあれは紛れもない現実だ。

 未だ教科書がないという理由で席をくっつけるのだが。


「あんまり寄らないでよね?」


 男子生徒を魅了する笑顔を、毒に塗れた刺で牽制される。随分嫌われたものだ。

 普段から授業は睡眠学習が多いので、隣のプレッシャーは気にならないのだが。


「ちょっと、寝てんじゃないわよ?!」


 小声でペンを突き立てられる。

 うとうとしているところを、大声を出さない程度に加減して突き立てられる。

 久坂が転校して、授業風景は少しだけ変化していた。
 授業に関しては、少しだ。