てとてとてと

「諸君らの気持ち、しかと受けとめた。
 だから今は下がろうではないか」


 ちなみに羽の色は黒。
 沸き上がるオーラも真っ黒だ。

 そんな悪一色な愉快犯は、仰々しく自分を振り返った。


「正々堂々、何でもありな勝負へ来たな。ライバルよ!」

 さあて、面白くなってまいりました。

 満面の笑みには、そう書いてあった。

 ――ウオオオオオオオ!

 大声なくせにやけに落ち着きがある。まるで奈落の亡者だ。


「ライバルよ、この場は譲るぞ」


 不敵に笑い、上着を翻し教室から消える扇動者。

 紛れもない、奴は悪魔だ。

 テンションが最高潮まで達した男子たちは、
 遠くから殺だの恨だの妬だの、黒い視線を送りだした。

 次の休み時間、生きていられるだろうか。


「……大変ですね」


 転校生の久坂は苦笑している。

 騒ぎの原因は彼女であるが、元凶と災害はほとんど関係がない。

 厄介事には好んで飛び込みたくないのだが、非がないうえに折角の誘いは断れない。

 これ以上問題が起きないように祈りながら、久坂をつれて屋上まで移動することにした。

 呪いのダンスを教授する、と教室の片隅で弘瀬を筆頭に何人かの男子が怪しげな舞を披露し始めた。

 そんな怖ろしげな教室からはさっさと移動し、
 結局昼休みが終わるまで教室には戻らなかった。


 ――と言うのが、昼休みに起きたすべてだ。


 これだけを見れば、確かに恨みや妬みを買って当然なのだが。

 そんなに羨むような展開なんて、実は何一つなかったりするのだ。