リビングに出ると、新聞を読んでいたおじさんが俺を見つけた。


「おはよう、幸介君」

「おはようございます、真一郎さん」


 穂積真一郎。
 穂積家の大黒柱にて彩音の実父。
 大木みたいに太い巨躯からは想像できないほど、優しい眼差しで朝食の支度をする彩音を見た。

 俺より頭一つ分小さい背、美人というより可愛らしい容姿に甲斐甲斐しく世話を焼く姿。
 初等部の頃から学年問わず男子を魅了してきた、その真価が朝から発揮されている。


「なあ、幸介君」

「なんですか?」

「可愛いとは思わんかねっ」


 実の娘に言う台詞だろうか。

 隠すこともすまい、真一郎は重度の親馬鹿だ。
 なぜか自分も例に漏れないようだが、彩音のことになると目の色が変わる。


「そこいらの馬の骨に彩音は渡さんよ!」


 血走った目で言わないでください。


「ああ。幸介君なら喜んであげるよ?」

「お父さん?!」


 ガチャン、とお盆をテーブルに叩きつける。
 幸いなことに、朝食の支度がすんだ後のようだ。

 顔を真っ赤にしながら父親に詰め寄る。
 そんな愛娘に、生暖かい笑顔で答える実の父親。


「いいじゃないか。幸介君ならパパの次に男らしいぞ」

「た、確かにそうだけどっ」

「裸を見たことがあるか? 十五歳にしておくにはもったいないほど逞しかったぞ」


 どんな体だそれは。
 男子の平均より背は高いと思うが、それほど筋肉質ではない。


「そそ、そんなっ……」


 彩音さん。赤い顔して僕をどうしたのかな?

 第一、俺より逞しい奴は同年代に一人いるじゃないか。


「私は幸介君の裸なんて見てないですっ」

「おや、プールでも見てないのかい?」

「い、いえあの、その」

「ああ。ほらほら、そこまでにしましょうよ」


 このままでは食卓にゆでダコが追加されそうだ。
 心なしか湯気が出ているような。


「ところで朝ご飯はまだかな?」

「支度はもう出来てます!」


 うん。いつも通りだ。
 真一郎が彩音をからかい、膨れた彩音を宥め、食事が始まる。

 何も変わらない、いつもの朝食風景だ。