てとてとてと

 ちなみに、落としてもらったのは消しゴムの消しカスだった。

 毎時間毎時間、嫉妬に狂った男子たちが投げ付けてくるのだ。

 未使用である辺り僅かな良心を窺える。

 自分が一体何をしたというのか。

 授業以外で会話はほとんどなく、彼らは積極的にアプローチしているというのに。


「やっぱり昼休みが原因なんじゃねえの?」

「…………あー」


 そういえば一度だけ。

 みんなが楽しみにしていた昼休み。確かに接触していた。

 チャイムの音色は戦士を目覚めさせる停戦協定決裂の合図だ。

 大人しく席に座っていた男たちは、我先にと駆け出していく。普段ならば。

 今回に限ってはみな大人しかった。
 と言うのも、心根が同じだからだ。

 お昼をご一緒に。

 スローガンを同じくした同士たちは、誰から声をかけるのかと目で語り合っていた。

 そんな輪に入らない、自ら仲間外れになる男子がここに二人もいるわけだが。


「昼はどこで食べる?」

「また屋上でいいんじゃないか」

「うしっ。じゃあパンは俺が手に入れるぜ」

「場所はとっておく」


 とんとん拍子で方針が決まる。

 同じ購買派として、余計な雑談は敗北に繋がるとよく知っているのだ。

 手早く自分達の役割を確認し、千草にいつも通り硬貨を渡す。


「いつもので」

「あいよっ!」


 息の合った掛け合いを終えて、廊下へと巨体がダッシュする。


「俺もよろしく」

「お前もかよ!」


 教室から不意な呼び止め、投げ渡される五百円玉。

 さすが弘瀬だ。おいしいタイミングは見逃さない。

 減速を考えない千草に、振り向かせて金を投げ渡すのだから。


「俺たちも上に行くか」

「あれ。お前は誘わないの?」

「腹が減っては戦はできぬ。
 それに、俺ばかりが先陣を切るのは不公平だ」


 そんなものだろうか。

 うわあああああ、と足を滑らせフェードアウトしていく声を気にしないことにして、屋上に向かおうと席を立ったその時。