「最初は綾に裏切られた…と思った
女の言葉なんてもう信じねえって
結局は財力のある男がいいんじゃんって

荒れたよ
毎日が苛々した
何かもが面倒で、うざったくて…
どんな言葉も信じられなかった

あちこちで喧嘩をふっかけては、男たちを殴って
女に声をかけられては、好き勝手に遊ばせてもらった

そしたらすっかり『紫桜の紅夜』って陰で言われるようになって
悪ガキどもに恐れられるようになったんだ

紫桜学院の制服を着て、暴れまわってたから
俺に勝てるヤツなんて一人もいなくてさ

でも…綾は裏切ったわけじゃなかった
綾の両親が、事業に失敗してたんだ
んで、借金が酷くて、俺の父親が金を肩代わりして…その代償に綾の体を奪ったんだ

綾が悪くないって頭でわかってても、心はそう簡単に切り替えられなくて

結構、酷いことばっか綾に言ってた

俺もガキなんだよな

今までの生活も変えられなくて
楽しかった…てのもあるけど

一人になるのが怖かった

まだ誰かを好きになって、失うのが怖かった」

紅夜さんの手が伸びて、テーブルの上にあった私の指にそっと触れた

「ごめん
俺、愛実をたくさん傷つけた
真剣な気持ちを受け止められなくて、また裏切られるくらいなら…
つらい思いをするならって臆病になってた

旅行のときも…
俺が女にたいして失礼なやつだって思ってもらえればいいって思った

んで、さっさと俺の前から消えてくれって

あのときは、これ以上、俺の心の中に入ってほしくなかった

苛々して、怒って、俺を嫌いになれよって

なのに、逆に俺が苛々してた
男として最低な俺を受けれてくれてるのに、何やってんだよ!って

自分自身がどんどん惨めになって
どうしていいか…わからなくなったんだ」

紅夜さんが苦笑した

知らなかった

紅夜さんがそう思ってたなんて

ただ遊びたくて、旅行に誘ってくれたのだと思ってたから