え?

「だってもう6時半なんですよ
待ち合わせは7時なんですよね?
……あ、もしかして7時にここに来るんですか
なら、私が急いで出ていかないとですよね…」

私はベッドから出ようとすると、ぎゅっと紅夜さんは腕を掴んだ

紅夜さんの握力が強くて、少し痛かった

「何、焦ってるんだよ」

「え? だって約束が…」

「…んで、俺がキャンセルしたって思わないの?」

「はい?」

私は目が点になった

え? キャンセル?

7時からの予定を、ナシにしたの?

なんで?

「だから7時からの予定なんてねえんだよ」

「どうしてですか?
だって昨日、電話で……」

「いいんだよ、昨日の約束なんて知らねえよ」

紅夜さんが首の後ろをガシガシと掻き毟った

首筋には、キスマークがまだ残っている

私は紅夜さんから視線を動かして、羽毛布団を見つめた

「『知らねえよ』ってことは、まだ彼女に連絡してないんですか?」

「あ? …んまあ、携帯の電源を入れてねえし」

紅夜さんの声が小さくなり、言葉が曖昧になって消えていく

「なんでですか?
そしたら昨日約束した彼女は、ずっと待ち呆けするんですか?」

「そういうことになるな」

「なら…キャンセルになってないじゃないですか!
すぐに用意をして、デートに行ってください」

紅夜さんはむすっとした顔をして、立ち上がると旅行鞄の中に入っている携帯を出してきた