「腹、平気か?」

小さいテーブルの上にパソコンを置いて、横に分厚い本を広げている紅夜さんは私に声をかけてきた

え?

「ここは…?」

「俺の部屋
大学の近くにアパートを借りたんだ」

分厚い本に付箋を貼った紅夜さんは、ベッドの横に座りなおした

「顔色、だいぶ良くなったな」

紅夜さんは私の額から頬に向かって、指を滑らせた

冷たい指先が、心地が良い

あ…デートっ!

「今、何時ですか?」

私は時計を探す

紅夜さんの室内には、置き時計も掛け時計も見当たらなかった

「6時半だ
何かあるのか? 寮の門限か?」

「あ、寮は平気です
家に帰ってることになっているので、明日の夜8時までに帰れば怒られませんから
そうじゃなくて、紅夜さんのデートです
昨日、7時から会う約束をしていたじゃないですか!」

「ああ…そうだね」

興味なさそうに紅夜さんは呟く

驚く様子も時間に焦る様子もなかった

「え? …急がなくていいんですか?
私なら歩いて帰りますから」

「急ぐ? 何で、急ぐ必要があるんだ?」

紅夜さんが不思議そうに首をかしげた