「わざと…だったんですね」

私は正座をして、紅夜さんの目を見つめた

「わざと以外に何があるんだよ」

「それが紅夜さんにとっての普通だと思いましたから
重くて真面目なのが嫌いだって言ってたから
自由に行動できる恋愛なら、付き合えるのだと思ってました」

「そういうのが重たいって言うんだよ」

紅夜さんがさらさらの前髪をかき上げた

「俺に気を使ってるつもりなんだろ?
何も言わないことが、正解だと思ってる
自分一人だけが我慢してるのが、俺にとっていいことだと言わんばかりに
悲しげな目をして、俺を見て……視線で俺を責めるんだ」

紅夜さんは手に持っていた携帯を枕元に投げた

「紅夜さん、誰のことを言ってるんですか?」

私の質問に紅夜さんの体がびくっと動いた

はっと目を開けたと思うと、喉を鳴らして私から視線をそらす

「『綾さん』って人ですか?」

紅夜さんの体がまたびくっと微かに動いた

「知らねえな」

低い声で言うけど、ひどく動揺しているみたい

紅夜さんの視線が宙を彷徨っていた

「そうですか」

「…あんた、何を知ってるんだ?」

紅夜さんの視線が私に向いた

まるで捨てられた子犬のような瞳をしている

今まで、見たことのなような紅夜さんの瞳だ

こんな寂しい目をした紅夜さんを私は見たことがない