11時半

まだ紅夜さんは携帯を触っている

私は持ってきた文庫本を出して、読んでいた

そろそろ眠くなってきかも……

でも眠れそうにない

眠いのに、横になっても熟睡できない気がする

パタンと紅夜さんの携帯が閉じる音がした

「…んで、怒らないんだよ」

ぼそっと紅夜さんが呟いた

「なんで、優雅に本なんか読んでられんだよ」

え?

怒ってる?

紅夜さんが怒ってるの?

私はしおりを挟むと、本を閉じて畳の上に置いた

「どうしたんですか?」

「いい加減、怒ってもいいじゃねえの?」

「何に対してですか?」

紅夜さんは明らかに苛々している

布団の上であぐらをかいて、私を睨んでいた

「俺は…ずっとあんたが怒ることばっかやってるんだぞ?」

「え?」

「気がつかないのかよ!
すぐに迎えに行くって言っておいて、何時間も待たせて

待たせた理由は女とホテルに行ってた
知ってるだろ?
大学の講義だって嘘をついて、俺は他の女を抱いていた

しかも見えるところにキスマークをつけて
車内の香水だってわざとだ

旅行に来たって、他の女と電話したりメールして
あんたとろくに会話をしてない

俺はあんたを無視してるんだぞ?

怒るだろ、普通

機嫌を損ねて、イライラしたりしてもいいんじゃねえの?」