『どうした? 朱音……』

携帯から紅夜さんの声が漏れてきた

紅夜さん、携帯をいくつか持っているのだろうか?

紅夜さんの声を聞くなり、朱音ちゃんの目がつり上がった

「どうした?…じゃないよ!
何してるのさっ!」

『何…って』
『紅夜、先にシャワー浴びてるよ?』

朱音ちゃんの携帯の中で、女性の甘い声が聞こえてくる

…やっぱり

そうじゃないかな?って思ってた

「紅夜兄っ! 愛実ちゃんとデートは?
約束してたんでしょ」

『約束してるよ
これから向かう予定なんだけど』

「何それ…何時間待たせてると思ってるの?」

『待っててくれてるんだろ?
ならいいじゃん』

「よくないっ!」

『どうして? 彼女はどう言ってるの?
怒ってるの?
もう帰るって言ってる?』

本当に紅夜さんは、人の心を読むのが上手だなあ

私がキャンセルのメールが入るまで、待つ女だって知ってるから

怒らないのも理解している

理解してて、やってるんだ

ズルい人…紅夜さんって

「朱音ちゃん、私は怒ってないから
来てくれるなら、ここで待ってる」