「ちょっと前の俺だったら、綾のあんな弱ってる状況を見たら…不倫の世界に手を出してたかも…って思った
弱ってる綾を見たくない
俺がいれば、綾が笑顔になるなら…って考えてたと思う
泣きつかれたら、心が苦しくて、弱ってる綾を抱きしめてた
けど、昨日は全然、違ったんだ
泣かれても、何とも思わなかった
俺に言うなよって思った
それより、廊下にいる愛実のことばっか考えてた
廊下での出来事を綾に聞かれていたのなら…ここでの会話だって愛実に聞かれてるだろ?
だから、俺らの会話を聞いて心を痛めてないかってずっと考えてた」

紅夜さんが恥ずかしそうに、微笑んだ

「廊下に出たら、朱音しかいないから焦ったよ
聞いたら、飲み物を買いに言ったっていうから、ホッとした
でも買いに行くふりして、帰ってしまったんじゃないかって気持ちもあって…朱音がいるのも気にせずに、探しに行こうと歩きだしてた」

紅夜さんって、心配症だね

紅夜さんが私の指に口づけをする

静かな部屋に、紅夜さんが指に吸いつく音が響く

「ご…ご飯、食べようよ」

「そうだな」

紅夜さんがにっこりと笑って、私の指を解放してくれた