うん、知ってる

泣き声が聞こえたから……

紅夜さんの手が私の指先を絡めてくる

私指は紅夜さんの手の中に、簡単におさまった

「廊下での俺らのやり取り、全部、綾に聞かれてたみたいだ」

紅夜さんが苦笑した

『お兄ちゃん、騙されてるだけだよ…あの人に』

『もともとが純粋で、真面目なお兄ちゃんだから、たぶん今も気づいていないと思う』

朱音ちゃんの言われた言葉が脳裏で蘇った

『綾自身、誰かを愛するという感情が欠落してますから』

今度は紅夜さんのお父さんに言われた言葉を思い出した

「愛実?」

紅夜さんが、そっと私の頬に触れた

「え?」

「どうした? 大丈夫か?」

「あ、ううん
何でもないよ
話し、続けて」

私は紅夜さんに笑顔を見せた

紅夜さんは綾さんをどう思ってるんだろう

「『ごめん』って謝られた
まだ俺を好きだって、忘れられないって…俺と話をしたときは、父親との恋愛に頑張ってみようって気になったけど
家に一人でいて、すごく不安になったって
俺と一緒になれないなら、手首を切って死んでしまおうって思ったってさ」

紅夜さんは『ふう』と息をゆっくりと吐いた

「それで? 紅夜さんはどう答えたの?」

「その気持ちを、そのまま父親に話せって言ったよ
俺には何もできないって…俺に泣きつかれても、困るって言ったよ」

紅夜さんが、唇を濡らす

紅夜さんの視線が下に向く