「私が紅夜さんと付き合ってるって、朱音ちゃんから聞いていたみたいで…
『君みたいな子と出逢ってよかった』って言われたの」

私の言葉に、紅夜さんは驚いたみたいで、目を丸くした

「本当に父親がそう言ったのか?」

私はこくんと頷くと、笑顔を見せた

「すごい嬉しかったよ!
病院内で迷子になってみるもんだね」

「そこは違うだろ
迷子になるなよ…て愛実は方向音痴だったんだな」

紅夜さんが優しい目で私を見ると、ぽんぽんと頭を叩いた

「案内図を見て、階段を探したのに…気がつくと夜間受付に戻ってたんだもの」

「…それを世間では、方向音痴って言うんだよ」

「ちゃんと案内図通りに…」

私は唇を尖らせてブツブツ言っていると、紅夜さんにキスをされた

「他には?」

「え?」

「それだけで階段4階分の会話にはならないだろ」

「ああ…えっと、離婚原因を聞いたり…とか」

「え? 父親が答えたのか?」

紅夜さんが驚いた顔をした

勇気あるな、お前…と顔に書いてある

「理由はいろいろあるって…詳しくは教えてくれなかったよ」

私は肩をすくめた

「今度は紅夜さんの番だよ?
綾さんと何を話したの?」

紅夜さんは床に尻を落ちつけると、寂しそうにほほ笑んだ

「泣かれた」