「紅夜…怒ってましたか?」

「え?」

「妻が手首を切ったっていうのに、仕事なんてしてんじゃねえって言ってませんでした?」

あ……

私は紅夜さんの言葉を思い出す

そんなようなことを言ってた

私の表情を見て、紅夜さんのお父さんはすでに理解したようで…恥ずかしそうに首の後ろを掻いた

「明日の仕事を休めるようにと思って、仕事場にいる間に、処理できることはしてきたんです
途中で放り投げていくよりは、効率が良いと思いまして…それに綾は、私がいなくても平気でしょうし」

え?

平気って

手首を切って、風呂場に倒れていたのに、『平気』って言うなんて…

「誤解しないでください
綾は、紅夜に心配して欲しくてやっていることですから
ちゃんと計算してます…死なない程度に」

急に、お父さんの声が低くなったような気がして、私は横を歩く紅夜さんのお父さんを見た

お父さんはにこっと笑っている

やっと階段が見つかった

おかしいなあ

一人で歩いていた時は、階段が見つからなかったのに…

二人だとすぐに階段が見つかったよ

私とお父さんは、階段を上ろうと足を持ち上げた

「うわっぁ」

え?

私は横を向くと、紅夜さんのお父さんが派手に階段で転んでいた

ええ?

「だ、大丈夫ですか?」

「あ、はい
すみません、つい、足がもつれちゃうんですよねえ」

お父さんが苦笑した