「お兄ちゃん、騙されてるだけだよ…あの人に」

朱音ちゃんが口をへの字に曲げて、不満な顔をした

「たぶん、お父さんは気づいてる
綾さんの…黒い部分を」

「え?」

どういう意味?

だって綾さんは、紅夜さんを好きなんじゃ…ないの?

「…て、朱音ちゃんっ!
紅夜さんと綾さんの関係を知ってるの?」

「知ってるよ
だってお姉ちゃんから聞いてるし、お兄ちゃんの様子を見てればわかるもん
お姉ちゃんも、今のお兄ちゃんに彼女ができてるのを知ってるし…それが私の友達ってことも…私が話したから
だから今日、私にメールがきたんだよ」

朱音ちゃんが、にこっと笑った

ちょっと寂しそうな目をしている

「お兄ちゃん、ああ見えても性格はすごく真面目だよ
真っ直ぐだし、お父さんの期待に応えるように必死に勉強もしてる
だから…世間の女を知らないお兄ちゃんが、あんな女に引っかかったんだって思った
すぐにあの女の腹黒さを知って、別れるとお姉ちゃんと話してたんだけど…
根が真面目だからさ、もう泥沼だよね」

朱音ちゃんが、肩をすくめた

「ハマり過ぎちゃって、綾さん以外の女性はこの世に存在しない!ってくらい、もう周りが見えないの
外から見てるこっちが、ヤバいって思うくらい」

紅夜さん、そんなに綾さんを愛してたんだ

「だから…綾さんがうちらのお義母さんになったときは、荒れたよ
それですぐに気がついてくれるかと思ったんだけどねえ…あの女の醜さに
もともとが純粋で、真面目なお兄ちゃんだから、たぶん今も気づいていないと思う
けど、お兄ちゃんはもう、愛実ちゃんに夢中だから、私もお姉ちゃんも安心してるんだ
…たぶん、お父さんも」

朱音ちゃんがにこっと優しい笑みを見せた