「あっ! あったよ
あそこみたい」

私は今、見つけたようなふりをして走り出した

紅夜さんの腕は、私の身体に触れずに空振りした

ごめんなさい

今は…ちょっと無理

紅夜さんが嫌いじゃないの

でも、怖い

綾さんが怖い

どうしていいかわからない

不安で、胸が押しつぶされそう

だからって紅夜さんに想いをぶつけても、お互いに苦しくなるだけだと思うから

綾さんと関係を切りたくても、切れない場所に紅夜さんはいるでしょ?

迷惑かけたくないの

私のせいで、苦しい思いをして欲しくないの

だから…私の気持ちが落ち着くまで、待っていてください

お願いっ

「あったよ、ここみたい」

私は病室の前で足を止めると、ネームプレートを人差し指でさした

「ああ」

紅夜さんの声が、低くなった

なんで、そんなに不機嫌な声を出すの?

紅夜さんは部屋の前に足を止めるけど、ドアを開けようとはしなかった

「入らないの?」

紅夜さんの目が、私を見る

すごく怖い顔をしてる

「その前に……俺を避けてるだろ?」

「え?」

バレてる…よ

私は何も知らないふりをして首をかしげた