「俺の父親はそういうヤツなんだ
優しくしてもらった記憶もねえし、風邪ひいてぶっ倒れたときとかも
看病してくれんのは、朱音の母か…姉貴だけだった
常に『仕事』が一番で、家庭の『か』の字もない男だよ、あいつ」

それって…綾さんのところに行く言い訳?…じゃないよね?

お父さんが、そういうヤツだから、俺が行かないとなんだ…って聞こえちゃうよ

違うってわかってるのに

なんか、ここに来た言い訳に聞こえちゃう

「綾は借金の肩代わりのために結婚したわけじゃん?
だから、仕事を放り投げて…っていうのは父親にはないんだと思うよ
残念な家庭環境だよなあ」

紅夜さんは明るい声で言うと、私の手に触れた

私は咄嗟に手をあげて、紅夜さんの手を避けた

避けた手を、さりげなく首の後ろに持って行って皮膚を掻いた

まるで紅夜さんの手には気づかずに、痒かった首筋を掻いたみたいな感じで

なんか…紅夜さんの触れ合いが怖い

好きなのに、どうしてだろう

綾さんのところに行こうとしているから?

綾さんがまだ紅夜さんを好きだと思えば、思うほど、紅夜さんに触れられるのが怖くなるよ

「愛実?」

「ん? 何?」

「…いや、何でもない」

私は微笑んで頷くと、紅夜さんから視線を外した

病室のネームプレートを見て、綾さんがいる病室を探しているふりをした

「どこの部屋だろうねえ、綾さん」

「あ? ああ、407号室って言ってた」

「そっか
さっきの部屋が、403号室だったから、もう少しだね」

「そうだな」

紅夜さんの腕が伸びてくる

私の肩を抱こうとしてるのが、わかる