病院を聞いた紅夜さんは、『はあ』と深いため息をついた

「なんでだよ」

ぼそっと低い声で、呟くと携帯を閉じた

「姉貴からだった
綾が…手首を切って病院にいるらしい
父親も、姉貴も仕事で傍に居てやれないから、俺が行くことになった」

「うん」

わかってるよ

携帯から声が漏れてたから…、紅夜さんが病院に行くってわかってる

わかってるのに

紅夜さんしか行ける人がいなくて、仕方がないんだってわかってるのに

どうしてだろう

心が苦しいよ

行って欲しくないって思ってる

行ってしまったら、このまま…紅夜さんが戻ってこないような気がして怖い

私は自分の右手首を、左手でぎゅっと握りしめると、笑顔をつくった

「私、寮に帰るよ」

「…いや、一緒に行こう」

「え?」

「どうせ、夜になれば父親の仕事も終わるだろ?
そしたら交代して、夕食を食べよう
肉じゃが、食いたい」

紅夜さんが、にっこりと笑うと私の額にキスをした