目が覚めると、部屋には誰もいなかった

肩まで掛けてある布団からもぞもぞと出ると、ぽけーっと紅夜さんの部屋を眺めた

静かな部屋だった

耳を澄ませば、隣の生活音が聞こえてくるけど、それくらい

窓もきっちりしまっていて、外の音は聞こえない

カーテンから、漏れてくる光を見ると、もう太陽があがってから大分時間が過ぎているような気がする

紅夜さんとのキスを思い出す

甘くないキス

キスに味なんかしないけど、味をつけるとするなら苦かった

ブラックのコーヒーみたいに、苦くて酸っぱい

美味しい香りにつられて、飲んでみたらすごく苦いコーヒーだった…みたいな感じ

紅夜さんが好きで、キスをしたのに…苦しいだけだった

一回だけ軽いキスをして、ベッドに入った

今度の私が紅夜さんの胸の中で眠った

目が覚めたら…部屋から人の気配が消えていた

テーブルの上に、一枚のメモがあるのが目につく

私はベッドから降りて、床にぺたんと座るとメモに手を伸ばした

『綾のところに行ってくる
きちんと話をしてくるから、部屋で待ってろ
絶対に帰るなよ   -紅夜ー』

男性の字?と思わず疑いたくなるように、綺麗な字だった

整っている

まるで、書道の先生みたいに、綺麗で読みやすい