「帰るなら寮に送るけど…俺は家に行かないよ
俺が綾の面倒を見る義理はないんだから」

紅夜さんがマグカップを食器棚に戻す

私は鞄を下に置くと、ぺたんと座り込んだ

「愛実?」

紅夜さんが、振り返ると驚いた顔をした

「私…怖くて
私がいるから、紅夜さんが帰れないって思って」

「うん、そう考えているって思ってた」

紅夜さんが私の前で膝を折って、視線を合わせて微笑んでくれた

「ごめん
俺がいけないのは、わかってる
綾を忘れきれてないのが、愛実に伝わってるのは、薄々感じてた
ごめんな、本当にごめん
でも愛実がいいんだ、俺は
愛実が好きだし、愛実なら俺を受け止めてくれるって思える」

寂しそうな目をすると紅夜さんは、私の肩をそっと抱きしめた

「一人にしないでくれ」

紅夜さんが、ぼそっと耳元で囁いた

紅夜さんとは思えないほど、弱々しい声だった