お父さんとの電話が終わった紅夜さんが、携帯をズボンのポケットにねじ込むと、行き場のない感情を必死に胸の奥に押し込めようとしているのがわかった

私は立ち上がると、学生鞄を手に持った

「私、帰るから」

「え?」

紅夜さんが、眉を潜ませた

苦しそうな顔をしている

思わず視線をそらしたくなるような…苦痛が、紅夜さんの顔を見ているだけで伝わってくる

「だって、帰るんでしょ?」

「俺は帰らない」

「だって電話でお父さんが…」

「帰らないって言っただろっ」

紅夜さんの口調が強くなる

私の体が恐怖でびくんと、震えると紅夜さんの目が大きく開いた

「悪い…怒鳴るつもりは…」

「へ、平気だから」

私は、肩に触れようとした紅夜さんの手を振り払った

「ごめっ」

今度は私が謝った

「いや…」

互いの体が固まる