みんなのせかい

『早くはずせ。』

ツトムは再び言った。

医師は穏やかな微笑みをキープしたままベッドの脇でツトムを見下ろしている。

医師はツトムの一点の曇りもない邪悪な怒りに少しも引けをとっていなかった。

『ツトムくん。』

医師は冷静にツトムに語りかけた。

『君は唯一の生き残りなんだよ。

私は唯一の生き残りの君を大切に治療しなければならないと思っている。

今は苦しいかもしれないがしばらくの間だけだ。

こらえてくれないかな。』

『死んだのか？』

ツトムは医師が喋り終わらない内に聞いた。

『ジュンジとマサユキは死んだのか？』

医師は少し困ったように眉を寄せ頷いた。

『……そうか。』

ツトムは抑揚のない声で無表情のまま言った。

そこには友達を失った悲しみという感情は見あたらなかった。

三人の絆はその程度だった。

少し落ち着いた様子に医師は安心し、続けて言った。

『残念だけどジュンジ君とマサユキ君は亡くなったよ。』

そして更に続いた医師の言葉にツトムは耳を疑った。

『本当に悲惨な交通事故だった。』