濡れた服を着替えた後に出された紅茶からは、盛大に良い香りの湯気が立ち上っていた。

身体の芯から冷えていたレナは、胃の腑からじわりと広がる温もりに吐息を零す。

彼女は所詮田舎の出ゆえ紅茶の味などよく分からない。

が、優しい香りと繊細な甘さは、自身が高級品であると雄弁に主張していた。

カップの白い底が見えるまで飲み尽くしてしまってから、レナはふ、と息を吐く。

彼女がいるのは屋敷の一室。

広い窓は分厚いベージュのカーテンで覆われており、白い無味乾燥な壁土がむき出しの、殺風景な部屋。

広々とした部屋に置かれているのは、机と椅子がそれぞれ一つと、ベッドのみ。

しかし、その重厚さはどうであろう。

良く分からない男だけれど、取りあえず財産家なのか、とレナは手に持ったままのカップを見つめる。

くすみのない白磁には、藍色と金で複雑な花と蔦の模様が描かれている。

これ一つが果たして幾らするのか、彼女には見当もつかない。

大体、と彼女は着替えたドレスを見下ろす。

繊細な幾重にも重ねられたレースに、驚くほど肌触りの良い生地。

それは田舎育ちの彼女では、見たことすらないような高価な布で作られているのだろう。

妙なことになった、腰をあげながら彼女はそう思う。

……が、差し当たって彼女は彼の元へ行かなければならなかった。

赤目の男が屋敷に着くなり、彼女をこの部屋に案内し、着替えと紅茶を出して行った優男の言葉がよみがえる。


『一息ついたらアルフレートの部屋まで来て下さい。蝋燭の明かり通りに廊下をたどって行けばつけますから。
 でも……くれぐれも明かりの道から逸れてはだめですよ?』



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