ほら、とセシルは適当な扉を開ける。

その部屋には本棚が所狭しと並べられ、床から天井まで数え切れない程の蔵書で満ちていた。


「うわあ……」


取りあえず、レナは呻くことしか出来なかった。

ばたんとその扉を閉めると、セシルはまた廊下を歩き出す。


「ね、物置でしょう?
 中には結構珍しい物もあるみたいですから、アルフレートや僕に怒られたくなければ、興味本位で知らない部屋や場所に行くのは止められた方が良いと思いますよ」


レナは頷いてから、少しの違和感。


「……って、私セシルにも怒られるの?」

「ええ怒りますとも。だってレナ様がそんなことをされると僕もアルフレートに怒られるんですから、当然ですね。
 これでも怒ると怖いですよ?」


セシルの顔には満面の笑み。

こういう人間が怒ると往々にして恐ろしい、という法則がある。


「アルフは本当に怖そうだけど……」

「残念ながら否定できる言葉がありませんねえ。冬の雷より怖いこと請け合いですよ」


レナの興味が他の部屋から移った瞬間、セシルが息をついたのに、彼女は気付かない。

このついでにとばかりに、セシルはもう一つレナに忠告しておくことにする。


「だけど、そのアルフレートに怒られるより怖い目に会いたくなかったら、夜になったら蝋燭の明かりのない廊下は決して歩いては駄目ですよ」


そういえばアルフに連れて来られた日もそんなことを言われたっけ、とレナは思い返す。


「うん。でもどうして?」

「このお屋敷は大変由緒正しいものです。となれば、屋敷の中で亡くなった人も多いわけです。
 まあ……簡潔に言うと、出ます」


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