「本当ですかっ?嬉しい!絶対ですよ!しずめちゃんが私に何かを貸してくれるなんて初めて!やだ、何か涙出てきちゃった」
 女は何をそんなに感激してるのか、本当に涙まで流して喜んでいる。
 私はこの時、しまったと思った。あまりにも何度もしつこく星についての説明を求めるので、いい加減うんざりして言ってしまった言葉だったが、女を喜ばせる結果になってしまうとは…。
 私は、この女が嫌いだ。この女がいると、母が…母の面影が消えていくような気がする。
 最初はカーテンからだった。「汚れていたから」というのが理由で、女が新しいカーテンを買ってきた。オレンジ色の、いかにもその女好みの明るいカーテンだった。次に、女は食器を割った。それは、父が母と結婚した当初に買ったというペアのマグカップだった。父は気にしなくて良いと言っていたが、私は許せなかった。だって、私は知ってるもの。女が割ったそのマグカップは、幾つかの箇所が接着剤でつなぎ合わせられていた父の大事な宝物だった筈だ。父は女にその事を説明したのだろうか?
「はくしゅんっ!」
 私が、マグカップの事を女に問いただそうと思った時、女は豪快なクシャミをした。
「おい!いつまでも外にいると風邪ひくぞ!」
 女のクシャミを聞きつけた父が、テントの中から顔を出して私達をテントの中に入るよう呼びかけた。
 今日は、これで寝る事になった。