当たり前の事だが、遠目では小さな山も、近くになると見上げる高さになる。
 私は父の手伝いをしながら、車から登山に必要な道具を取り出し、最後のチェックをする。特に、食料のチェックは入念に行っておく。「もしもの時、やはり頼りになるのは食料だ。食料がなければ、人は生きていけない」
 そんな父の言葉を噛み締めながら、私は自分のリュックに用意した食料を詰め込んだ。
「しずめ…ちょっとリュックの中見せろ」
 不意に、父が私のリュックを掴み、私の了解も得ない内から、ごそごそと私のリュックの中身を品定めし始める。
 思わず私が抗議の声を父にあげようとすると、それより一瞬早く、父は私のリュックからお菓子のたくさん入ったビニール袋を取り出した。
「これはいらないな?」
 そう言うと、父はお菓子が入った袋事、車の中にビニール袋を放り投げた。
 あぅ!私のぽっきーにムースショコラに、カールにダブルキャラメルに静岡限定ジャンボわさびプリッツにサービスエリアで買った巨砲ポッキー…あぁ、九州限定のメンタイプリッツまで投げ捨ててしまうなんて…。
 私は、無惨に投げ捨てられた地域限定物のお菓子に涙しつつ、心の中では、無駄に大きいだけのお菓子と分かっているので父に何も反論ができなかった。
 雪山での登山に限らず、登山をするにあたって体力は重要なポイントになる。少しでも余計だと思われる物は、できるだけ置いていくようにする。私から言わせれば、あの神楽って女を置いていくのが、一番の無駄を省く事になると思うんだけどな…。
 重い登山用のブーツに、スパイクのような物を取り付け、靴は更に重さをますが、これでないと雪山は登れないのだという。