「これ…風間さんが好きだったお店のコーヒーです。どうぞ…」



見たこともない可愛いコーヒーカップだった。いい香りのコーヒーを差し出されても、なかなか手を付けることが出来なかった。そんなあたしを見て、彼女から話を切り出して来た。


「私、風間さんのこと…ずっと好きだったんです。結婚なさってることも承知で。転勤するって決まった時に、お宅へお邪魔させて頂いたの覚えてらっしゃいますか?」



「…えぇ。」



「初めて奥様を見て…叶わないって思いました。美人でお料理も上手で、お部屋のセンスも良くて…私、諦めようとしたんです。でも…風間さんが転勤してしばらく立ったある日、本社で会議の時にお会いしたら、少し痩せたみたいでした。私、思わず独り暮らしはどうですか?と声を掛けたら…」



彼女は目を潤ませ、絞り出すように



「風間さんは…寂しいよって…でも仕方無いよって…笑顔で言ってたけど、一瞬哀しそうな顔をしたんです。私は、風間さんがひとりで寂しがっているなんて耐えられなかった…」



震える声であたしの知らない夫の話をしている彼女の目を見ることが出来なかった。