「俺、今日は休みなんだ。昨日中国の工場視察から帰ったばかりだから。ゆうの仕事が終わったらまた会えないかな…話がしたい。だから…お願いだ。連絡くれないか?」
あたしの体をバスタオルで壊れ物を扱うかの様な優しい手で拭く。
「…わかったわ。連絡する。」
あたしもあなたと…
話がしたい。
身支度を整え、ホテルを後にして彼の運転する車でマンションまで送ってもらう。その間はお互い会話も無く、重い空気が漂っていた。
外はまだ暗いけどもうすぐ夜明けなのだろう、公園の木々に住まう鳥達の声が聞こえ始めていた。
「じゃあ…連絡待ってるから。」
成瀬さんは手帳に携帯番号とアドレスを走り書きし、ビリッと破ってあたしの手に握らせた。
「じゃあ…送ってくれてありがとう…」
車のドアに手を掛けようとしたら、腕を捕まれた。
体を引き寄せられ、熱いキスをされた。
するとコートを半分脱がされ、着ていたセーターをたくし上げて顔を埋めて来た。
「ちょっ…成瀬…さん!」
左胸にチクリと痛みが走る。
「……うっ………」
「これはゆうと俺の約束の証だよ。今日の約束忘れないで。ずっと待ってるから…」
コクリと頷き、あたしは車から降りた。
成瀬さんはあたしが中に入るまで見届けると、車を走らせていった。

