薄明かりの中で微笑み合ってキスをする。
お風呂と寝室でしか見られない眼鏡なしの彼の素顔。
もうすっかり見慣れたものだけど、この部屋に初めて泊まりにきた日は……。
その夜のことは今でも鮮明に思い出すことができる。
期待と不安がまざった緊張も、新鮮な驚きも、嬉しさも、どうしようもない気恥ずかしさも。
まるで昨日のことのように鮮やかに脳裏に蘇る。
なのに、ひどく昔の懐かしい記憶のようでもあって……なんだか不思議。
「こんな夜でも、やっぱり寛行さんは言わないんだもんね」
「何を?」
「だーかーらー、“君は僕のものだ”とか。そういう台詞を、ですよ」
彼がその台詞を好まないことは知っていた。
たぶん“もの”って言い方に引っかかっているのかも。
だからというか「僕だけの君でいて欲しい」と言ってくれたことはある。
彼なりの独占欲の顕示。
控えめなようでいて、頑として揺るぐことのない彼らしい台詞。
紳士的でいて情熱的な。
けど、そんな彼だからこそ言わせてみたくもあった。
「君は僕のものだ」と。
「僕だけのものだ」と。
なのに、彼ときたら――。
「“おまえは俺だけのもんだから。ぜってーに離さねぇから覚悟しとけよ”」
「誰ですかそれ……」
ほらまたこうして茶化す……。
何処からの引用か知らないけどコテコテの“俺様”な台詞。
しかも棒読み……。
本当は私の考えていることなんてまるっとお見通しのくせに。
「寛行さん、感じわるーい」
脱がされたうえに組み敷かれて身動きが取れない私。
顔だけをぷいと背けて視線を逸らす。
すると、むすっと拗ねる私に彼は思いがけない言葉をかけた。
「君のものだよ」
「え?」
ん? 今、なんて……?
「僕は君だけのものだよ」
朗らかにさらりとのたまう寛行さん。
冗談みたいな言い方、だけど……十分すぎるほど伝わった。
彼の本気が、献身を誓う真っ直ぐな想いが。
「私だけ、の?」
ぎこちなく目を合わせると、彼は穏やかに微笑んだ。
「そっ。君だけの。ずっと、ずっとずっとね」
私を宥めるときの優しい目。
そんなふうに見つめられたらもう……。
「えーと……それにしては、私ってばけっこうな扱いを受けてる気がするんですが」
照れ隠しにわざと無粋なことを言ってみる。
だって、私だけ恥ずかしい恰好させられてるのは本当だし。
パンツ一枚(略してパンイチ?)にされて、まるで“お手上げでーす”みたいな具合に手首を抑えつけられて。
「まあまあ。細かいことは気にしないでさ」
余裕の笑みを浮かべて私を見下ろす彼の憎らしいこと、愛おしいこと。
「むぅぅ。じゃあもう気にしない」
「うん。気にしないで」



