准教授 高野先生の結婚


今朝ここへ着いたときには「ちょっと早すぎ?」なんて思ったくらいだったけど、いやいやいやいや、なになになになに……。

ようやくお支度を整えたあとは、お式の前に家族や友達との挨拶&お写真タイムがあり、その次には礼拝堂で新郎新婦の二人立ちの写真撮影があり、なんやかんやであっという間に直前のリハーサルの時間になっていた。

リハーサルが必要なのは、新郎新婦と新婦の父。

お父さんは新婦との歩き方のレクチャーだけなので、とりあえずこちらを先に済ませることになった。


「あの……私、どうしても転びそうで怖いんですけど」


半泣きの顔で久遠さんに救いを求める気弱な花嫁……。

けど、柘植さんも久遠さんもプロフェッショナルだもんね。

久遠さんなんて名前も“結”さんで縁起いいし、うん。

必ずや絶対に転ばない妙案があるに違いない。


「花嫁さんが自分のドレスの裾を自分で踏んで転ぶということはないと思いますよ。転ぶとしたら、そうですねぇ……お父様が間違って踏んじゃうときとか?」

「そんな、娘の足を引っ張るようなこと……っ」


お父さんはぎょっとして、久遠さんの言葉にうろたえた。

すると、久遠さんはくすりと笑い、それから礼儀正しく謝った。


「すみません、冗談です」

「な、なんだ……そうですか」


あれ?お父さん、心なしかさっきよりもずっと緊張がとけたような?

その安堵の表情に私の心もちょっと和んだ。


「花嫁さんはドレスを蹴るような感じで歩くといいですよ。もちろん、外からはまったくそんなふうに歩いているように見えないので」

「わ、わかりました」


ということで――実際にやってみた。

蹴るように、蹴るように、蹴るように…………。

ちなみに、今の私の目線は普段よりもずっと高め。

それは今履いている靴のせい。

ヒールが高いわけではなく、靴底全体が超厚底仕様の変わった靴。

うぅ、“花魁(おいらん)道中”や“板前さんの高下駄”を彷彿とさせる高さと重みが……。

そう、これもすべてドレスを美しく着るため。

このドレスは長身の女性が着るといっそう映えるデザインだから。

新郎が小柄な人だと新婦のほうが長身になることもありおすすめしないそうだけど、寛行さんと私の身長差は十八センチ。

これを利用しない手はない、と。

でも――。


「ああっ」

「しーちゃん!?」

「く、靴が……っ」


勢いよく蹴りすぎてごろんと脱げた……。