准教授 高野先生の結婚


もう読み返すのはこれっきり、一度だけ。

便せんを丁寧に元通りにして封筒に入れる。

するとそこへ、背後からタイミングを見計らったように、彼がぬっと現れた。

「泣き虫のそこの方。ティッシュの無料サービスですよ?」

「感じ悪い……うぅ……」

まるでいつぞやの光景と同じ。

"泣き虫の詩織さん"にティッシュの箱をお届けする"心やさすぃー寛行さん"。

「もうっ……自分でも、嫌になっちゃう……なんかすぐに、涙がでちゃって……」

本当にもう、恥ずかしいやら情けないやら。

だって、自分が書いた手紙で、自分で泣いてるとか……。

「あーあ、もうっ……自分で掘った落とし穴に自分で落ちたみたい」

「おっ。なかなか上手いこと言うねぇ」

「そこ、笑うとこじゃないし」

「はいはい。あ、自爆とかオウンゴールなんて言い方もできるかもね」

「むぅぅ……」

ズビズビと洟をすする私の隣で、寛行さんがニコニコ笑う。

「まあまあまあ。あったかいお風呂にでも入って元気出しなよ」

「うぅ……そうする」

「うん。そうして」

こくんと頷くと、彼は私にヨシヨシと頭ぽんぽんしてくれた。

「……ありがと」

「いえいえ」

 それから彼は「少しだけ仕事があるから」と部屋にこもり、私はひとりでお風呂へ。

寛行さん、本当に仕事なのかなぁ……なんて。

私への心遣いなのかなって気がして。

その細やかな優しさが嬉しかった。


ベッドにもぐりこんでから、ちょっとだけ明日のことを話した。

「あっ。明日の天気どうだった?寛行さん、天気予報見た?」

「曇りときどき晴れ、だったかな?」

「そうなの?」

「いや、晴れときどき曇り……だったかも?」

「とりあえず雨ではなさそうなのね」

「そういうこと」

「ほっ。なら安心かな」

いつものように、だんな様にぴったりくっつき目を閉じる。

「明日は寝坊しないように、っと」

「明日の夜は新婚初夜だな、っと」

「まだ言いますか……」

「うん」

おバカな新婚夫婦の結婚前……結婚式前夜。

純白のサテンのリボンを結んだフランソワが呆れて笑っている気がした。