お隣のお兄ちゃん



リビングの中は開け放たれた大きな窓から、エアコンなんていらないくらいの、少し冷たさを帯びた空気にすり替わっていて。



この部屋に足を踏み入れた時の、ドキドキしてた私の熱い心も同じくらいひんやりと冷たくなった気がする。



やっぱり、帰ろう…



このまま、ココにいても目を背けたくなるような現実ばかりを突き付けられる気がする。



今は、なんとかギリギリの線で、こぼれ落ちそうな涙をセーブできてるけど。



胸が痛くて



痛くて……



もう、笑っている自信なんかない……



いそいそとテーブルに食器を置いて、ソファーの上のバッグを引っ掴んで、玄関へ向かおうと、踵を返すと。




「あれ、香奈?どこ行くの?」



って、背中から聞こえる由樹兄ちゃんの声と、段々と私に近づいてくる足音。



その足音に逃げる事はおろか、振り返る事さえできない私はその場に立ち尽くす。



声を出せば、今にも涙がこぼれ落ちそうで…



お願いだから、こっちに来ないで…



そう願いながら、私はギュッと両目を閉じた。