龍人大戦

「…かしこまりました。では、こちらの誓約書にサインをお願いします」

受付嬢が示した誓約書。
要約すると。
勝負の中で怪我したり死んでも文句言わない。
試合が決まったあと棄権する場合、相手に賭けた物を無条件で差し出さなければならない。
引き分けは、両闘士死亡の場合のみ成立する。
勝負内容は、デスマッチ固定。

…こんな感じ。
マリアさんも一通り見て名前を書く。

「お願いしますわ」

「ご参加ありがとうございます。では、条件を満たす闘士をさが…」


「へへ…その必要はないぜ!」

いきなりだった。
太い声とともに、どかっ!と、カウンターにずたぶくろが叩きつけられた。
その僅かに開いた口から、札束がうかがえる。

「あっ…ダグラスさん」

受付嬢の視線の先にいるダグラスという男。
230センチはあろう大男。筋肉の鎧といっていいほど、太く、引き締まった体。
しかし、注目すべき 点はそこではないといわんばかりに、全身、痛々しい傷跡を張り巡らせている。顔も同様に傷跡だらけ、オールバックなのでよくわかる。

その男はニヤニヤと、嫌らしい笑みをうかべながらマリアさんを見ていた。

「受け付けの嬢ちゃん。その袋にゃ、ちょうど1000万入ってる。だから、このねーちゃんと闘わせろや」

「は…いや、でも今日は他の試合…」

「キャンセルだ。200万なんか、くれてやるよ」

こうして受付嬢と応答している大男だが、視線はマリアさんから離れない。
対するマリアさんはというと、無表情で大男を見ていた。
冷たい瞳。
恐らくは、値踏みしているのだろう。
男の力量を。

「ねーちゃん。腕に覚えがあって参加したんだろうが…俺がたまたま居合わせたのは災難だったな。…まぁ、試合を楽しみにしてるぜぇ…くへへ」

そう言って、男はカウンターをあとにした。

「さて。無事試合も決まったことですし、試合開始時刻を教えてくださいな」

「えっ…あっと…。 決まり次第お知らせします。遅くても、二時間以内には闘えますよ」

対戦相手があんな大男でも。まったく揺るがないマリアさん。
そんなマリアさんを見て安心したのか

「あの…コロシアム側の人間が、特定の人を応援しちゃいけないんですけど……頑張ってください!!」

受付嬢は激励してくれた。