「いや、ちげーんだよ。何度も別れようと思ったんだよ、でもなんか……変な威圧感が……」

威圧感以外にも色々と感じることはあるのだが、それが何かはよくわからない。
形容するとしたら、影、だろうか。

「へぇ、威圧感ねぇ。なんかわかるっちゃわかるが」

美波の姿を思い出しながらか、カズが視線をよそに向ける。

「確かに、彼女のまとう雰囲気は何処か影があるな」

マモが視線を本に移したままで言った。

美波の纏う雰囲気は、確かに他の女子……いや、他の人間とはどこか違うものがある。
神秘的だが、何処か暗い感じがする。いわばミステリアス、と言ったところか。

そんなミステリアスな彼女に一目惚れして、今に至るわけだが。

「綺麗な薔薇にはトゲがある、ってやつだろ。学校一の美人に一目惚れで告ってまさかのOKってだけでも、ありがたいと思え」

……まぁ、そりゃそうか。
カズの言葉に、なんとなしに納得する。
世の中にはいろんな人間が居る、という事で片付けておこう。ただ、なんで彼女があんなことをしたのかは気になるが。

あの日のあの後、彼女は俺がドアを開ける気がないとわかったのか、いつの間にか姿を消していた。
その後電話やメールで連絡を取ったが、応答はなし。次の日の学校でも、彼女はいつも通り、ただ、静かに自分の席に座っていた。

何がしたかったのか、わからない。