男の視線の行方に一気に不機嫌になる。
「ん……みたいだね」
男は珈琲を一口飲み、テーブルにカップを置きながらゆっくり話す。
「気付いてるなら何か言う事ないの!?」
「例えば?」
「そのワンピ、カワイイね。とか似合ってるよ。とか!」
「奈緒(なお)はそんなわかりきった言葉が聞きたいの?!」
クスリと笑いながら、唇を尖らし睨み付ける私を優しく見つめる。
男は絶対、私の身だしなみを誉めたりしない。
数ヵ月前、背中まで伸ばしてた髪を肩のラインでバッサリ切り揃えたのに、何一つ反応がなかった。
「もう、いいっ!」
プイッと横向く私の頭をクシャッと撫でると、伝票を手に立ち上がり、スタスタとレジに向かう。
「ハァ~、もう!」
肩で大きくため息をつき、男の後を追った。

サ店を出るといつもの様に、お互い反対方向に歩き出す。
私は迷う事なく、いつものコンビニの店先に向かう。
2~3分後、シルバーのレクサスがゆっくり止まる。
私は男の愛車の助手席にすばやく乗り込み、わざと乱暴にドアを閉める。