夕方、混雑を極める都心の駅のホーム。
いつもの様に人込みをかき分け、トイレに駆け込む。
すばやく制服から私服に着替え、余計な荷物をコインロッカーに放り込む。

街に出ると昼過ぎからちらつき出した雪がクリスマスムード、一色の繁華街を引き立てていた。
きらびやかなイルミネーションの中、歩きながら腕時計に視線を移す。
待ち合わせの時間まで後、7分。
今なら走れば充分、間に合う。
でも、私は走らずに歩いた。
理由は一つ。
走ったりすれば雪解けの泥が跳ね、買ったばかりのワンピを汚しそうだったから。

レトロ超のいつものサ店に着いた時には約束の時間を2分オーバーしていた。
ゆっくりドアを開けるとカランカランと重みがあるようで乾いた鐘の音と同時に、バイト君の「いらっしゃいませ!」が店内に響く。
それが合図だったように私を見つけ、静かに微笑む男。
男はいつも微笑むだけで絶対、手を振ったり声をかけたりしない。
そして私はまるで引き寄せられるかの様に男の向かい側に座る。
男は唇に微笑みを浮かべたまま、少し安心した様な視線を珈琲に移す。
「ねぇ!今日のワンピ、昨日買ったばかりで、しかも超お気に入りなんだけど!」