今日も昨日に引き続きいい天気だ。蝉もけたたましく鳴いている様子は、夏と言えば定番になりつつある。

「暑~いなぁ、こう暑くちゃやる気も起きないぜ」

「ほらほら~!ダラダラしない!本日最後の配達でしょ、行ってらっしゃい~!」

配達用の花を車に積み終わるとトランクをガタンと閉め、私はやる気のない彼に向かって手を振った。

「……もはや他人事だな。そうだ!代わりにお前行ってくれねぇかな。この埋め合わせは後でちゃんとするから」

「ダメ!その手には乗らないわよ!決められた仕事はしっかりと責任を持って果たすこと!!分かった!!」

「へいへい」
返事からも仕方ねぇなという様が思いっきり伝わってくる。

「実はね、これから約束があるの」

「約束?」

「そ、デート」

「デート?!」

「……驚いた?」

「そりゃあ、まぁ、それなりには……」
廉の反応が見たかったのだ。動揺しているな……よしよし。

「なんちゃって」

「?」

「昨日、海で迷子の子を助けたら、なんと!その子があの『神崎グループ』の御曹司だったってわけ。それでお礼がしたいって言われて……」

「浦島太郎みたいな話、本当にあるんだな。いいなぁ〜お前だけ」

『浦島太郎』?
虐められていた亀を助けたお礼に竜宮城へご招待――って!
言われてみれば似てなくもないか。

「ごめん」

「ばーか!なんで謝るんだよ、お前は悪くねぇだろ。寧ろいい事したんだから胸張ってろって!」

「……廉」
なんだか少しだけ胸騒ぎがするのは気のせいよね。

「心配するな、翠ちゃんから依頼があっても、今日は俺一人でなんとかするから」

「ありがとう」

これが今回の事件の幕開けとなることを、私はまだ知る由もなかった。