ブルッ、とスカートのポケットの中でケータイが震える。
画面を見ると、彼の名前が表示されていた。
「ごめん。ちょっと出るね」
「うん。じゃあ私aiko歌ってるね」
「うん」
トイレに向かうと、その手前にある長椅子に彼が腰掛けているのが見えた。
「どうしたの」と声をかけると、彼は困ったように笑う。
「ちょっと倉橋といるの気まずくてさ」
「どうして?カナは何も気にしていない様子だったよ」
「…うん」
煮え切らない返事。
あたしの中でうずうずと疑いの虫が動いた。
「…もしかしてカナとは昔付き合ったことある仲、とか?」
えっ、と彼が目開く。
それからすぐに「違えよ」と否定した。
「倉橋に告られたのは本当だけど、俺その時から元カノと付き合ってたしちゃんと断ったよ」
それを聞いて、あたしは安堵のため息を漏らす。
「なんだ、そうだったんだ」


