“恭介さんと別れてください”


 それが、手紙の書き出しだった。あの日から半年後の事だ。


“私は恭介さんを愛しています、あなたよりも”


 それと、恭介と楽しそうに笑う写真が添えてあった。

「別れてくれ」


 私があの手紙を持って詰め寄ると、恭介はそういった。


「なんで……」


 私はしばし呆然としてしまった、知らない間に涙が頬をつたって流れ落ちる。


「私が何をしたのよ、こんなにも尽くしてきたじゃない、どこが不満だったのよ」


 ねえ。


 そう言って、恭介の分厚い胸板を叩いた。


 それでも恭介は何も言わない。


「いやよ、私は別れない、何か言いなさいよ」


 私は、しつこく何度も繰り返しそう言った。


「お前、本当に俺に尽くしたなんて思っているのか」


 何度目の問いかけだろう恭介はようやく返事をした。


「はぁー?」


 私はいぶかしげに恭介をにらんだ。



 それを見て、ついに恭介は私に向かって怒鳴り声をあげた。



「お前を愛して尽くし続けたのは俺だ、お前じゃない、俺だ」


 なに言っているの。


「お前は俺のことを愛した事など一度もない、ただ、愛して愛してとせがみ続けただけだ」


 なんだ、こいつは何を言っている、これがあの恭介なの?


 ごめんなさいとか、もうしませんとか、こんな女、遊びだ、本当はお前だけを愛しているとか。


 私はそういう答えを期待していたのに。


 何よそれ?


 なんで私が責められないといけないの、浮気したのは、あんたじゃない。


「とにかく俺はもう、これ以上お前とはやっていけない」


 そう言って恭介は、部屋を出て行った。


「きょうすけ……」


 そう言って私は、恭介のスーツを抱きしめてへたり込んでしまった。