精神状態がよくなかったせいもあるが、息子の就職が決まると、私は定年を迎える前に退社した。                           

 息子はもういない。                          
 一人で気楽に生きていけば、その内きっと良くなるだろう。                                
 私はそう思いながら、縁側でお茶を飲んでいた。                                     
 すると家を出ていった息子が突然、帰ってきて私の肩に手を置いた。                            
「またすぐに戻ってきますからね」                                
 そう言って微笑み、私の耳元で笑いながら、ある言葉を言った。