直径一メートルの隕石が、そこまで接近している。速度が速すぎる。そうだ、逆噴射して方舟の回転を止めよう。ああ、めまいを起こして転倒してしまった。

頭が重い、痛い。血を吐いてしまった。体力がない、立てない。はいつくばってでも、操縦席に向かわないと…。操縦桿に手が届かない。握る力もない。おお「主」よ、私たちを守りたまえ。

「これで、仕事は終わった(アインシュタイン)」

「光あれ」
隕石が、方舟の「核融合装置」に直撃した。太巻き寿司型の方舟は真二たつに割れ、大爆発を起こした。そして円球状の炎が、宇宙空間に広がった。

破片の一つ一つが、火の粉となって拡散した。方舟は一瞬にして消滅し、宇宙の藻屑と成り果てた。

 それは「希望の光」ではなく、「絶望に値する光」だった。「主」と「人類」との間で交わされた契約が、今ここで解約された。人類の存亡は許さない。

二五二一年。ここに、方舟の全乗員は死滅した。地球に生き残っている僅かな人類も、間もなく絶滅する。

 人類が新しく創世した「火星」には、人類に変わる新しい生命体が育まれる。穢れた人類が生存しない、明るい未来がこの火星を豊かにするであろう。人類は火星に必要ない。

「まぼろしの 白き船ゆく牡丹雪(高柳重信)」 

「イスラエルの家とユダの家は、わたしが彼らの先祖と結んだ契約を破った。見よ、私は彼らに災いを下す(エレミヤ書)」

●最終章、「第十三章 複製される宇宙」へと続く。