ジェネシス(創世記)

火星の表面には、大洋が形成されている。青く美しい星、火星。まるで地球を見ているようだ。地球が恋しい。あの土の臭いがこれほど、懐かしく感じたことはない。

 温泉につかりたい。節水のため、弱紫外線&微粒子シャワーの浴室しか使用できない。ラーメンや寿司が食べたい。宇宙食や栄養剤は、もう飽きた。

アゴを動かさない食事は、唾液がでないし、自律神経も活動しない。自律神経失調症を引き起こしかねない。

 死ぬのは、いつでも死ねる。方舟の中では、私だけが自由に動きまわっている。そうだ、一人じゃつまらないから、司祭者の飼い犬、介助犬の「ピイチャン」を解凍しよう。

この低重力の下では、「マグネットブーツ」は必需品だ。ピイチャンも、特製ブーツはさすがに履きなれないようだ。歩くのも大変だ。ピイチャンは賢い。

無重力状態の中で、トイレの使い方も分かっている。恐ろしい犬だ。「主」に選ばれただけのことはある。

 自筆の本でも、書き残したい。ユダ人と出会った日々を、思い描いてみたい。だれも読んでくれることはないが、一度彼らに関する研究論文を刊行してみたかった。時間ならたくさんある。私の論文は、口述によってアルバートが記録してくれる。

 私にとっての「聖書」とは、アインシュタインの「相対性理論」と「俳句全集」と「百人一首」だ。

学生時代、法学部の友人は「六法全書」が聖書だと言っていた。私は「新世紀聖書」と称して、ユダ人と過ごした出来事を書いてみたい。

「神様は、サイコロをふらない(アインシュタイン)」