ジェネシス(創世記)

方舟は、積極的に放射線を防ぐだけの構造設計をしていなかった。私の理論に、間違いがあったということか。数百年も、火星の周囲をさまようなんて想定していなかったからだ。

 違う。現場からは、放射線の対応策をすでに指摘されていた。外壁・内壁が薄すぎる。材料を節約したために、強度が足りなかった。

 デンマークの大学で研究していたユダ人の知人は、放射線を中和する「陽電子中和剤」を開発していた。それを取り寄せ、設置すればさらに安全性が保たれていた。

その機会が三回もあった。素直に耳を傾けなかった、自分に非がある。意地を張りすぎていた。

「一対二九対三00。一件の大災害の裏には、二九件の軽災害があり、さらに三00件のヒヤリ体験がある(アメリカ人技師、ハインリッヒの法則)」
*労働災害の発生確率及びビジネス上の失敗発生確率を分析したもの。

 私は理論物理学者。机の上で探究し、答えを求める学者だ。巨額な研究費用、施設を要してコツコツと研究し証明するような実験物理学者とは違う。現場に従事している人達の意見を聞かず、無視して図面通りの方舟を建造させていた。

 きっと、現場の人たちからは嫌われていたことであろう。思い上がるのも、いい加減にしろ。これも年のせいだろうか。

いや、生まれつきの根っからの性悪な性格であろう。「失敗学」は、私の専門分野でもある。自分自身、生かされていない。良くこれで、大学の教授を勤めていたな。

 この時代、ガンはもう不治の病ではなくなっていた。ドラッグストアで市販薬を購入して、治すことができるくらい、製薬技術は進歩していた。しかし、放射線によるガンの進行を阻止するだけの医学はまだ、確立されてはいなかった。

 被爆した人たちの遺伝子には、傷がついているため奇形児が誕生する。この計画もこれまでだ。希望を失った。

私はモニター画面を通して、青く輝く火星を眺めながら大いに笑ってしまった。バカ笑いをしてしまった。

何だ? うるさい警報機だな。また誤報か。しつこいぞ、音を消してしまえ。